登山と突然死CLIMBER 2022年8月9日
突然死とは、「外見上健康と思われる人に生じた急性発症の24時間以内の予期せぬ死で、内因性の原因(内臓の異常)により生じたもの」と定義されています。日本国内では年間約10万人の突然死があり、このうち約6万人が心臓の異常が原因となる心臓突然死といわれています。
登山における突然死の特徴としては以下が挙げられます。
- 登山における3大死因に心臓突然死がある。
- 心臓突然死した方は心臓病を抱えている自覚がないことが多い。
- いったん山中で心疾患を発症すると救命はきわめて困難 (予防が重要)。
では、これらについて詳しく説明します。
登山における3大死因として「外傷」、「心臓突然死」「寒冷障害(低体温症・雪崩埋没)」が知られています。
山岳遭難死の原因には地域性があり、長野県では岩稜帯の山が多いことから「外傷」が最も多く、富山県では豪雪地帯のため「雪崩」が最も多い死亡原因になっています。一方で、地域差なく一貫して発生しているのが「心臓突然死」です。
登山中に外傷や雪崩で死ぬことは想像していても、山で突然死する可能性についてはあまり考えていない方が多いのではないでしょうか?
図1:山岳県における山岳遭難死亡者数(2017年)
警察庁ホームページ 「平成29年における山岳遭難の概況」より作図
図2:長野県における山岳遭難死因(2017年)
長野県警ホームページ 「平成29年中(長野県)山岳遭難統計」より作図
2017年の統計では、長野県は他県に比べて圧倒的に山岳遭難死亡者数が多く、遭難時の死亡率も高いのが特徴です。図2は2017年の長野県内の山岳遭難死の死因を示したものです。前述のとおり、岩稜帯の多い山域を抱えていることから半数近くの方が転・滑落といった外傷でお亡くなりになっています。次に多いのが発病でおよそ20%を占めます。山の中という特殊性から正確な診断はされていませんが、発症状況をみるとすべて突然死と思われます。
登山中の突然死の詳細な原因の検討は難しいのですが、登山ではない一般のスポーツ中の突然死の原因として35歳以下では肥大型心筋症、心肥大、冠動脈奇形などが多く、35歳以上ではおよそ80%が虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)であったと報告されています(Murayama M, et al: Int J Sports Cardiol. 1994; 3: 19-25)。
また、突然死が最も多いスポーツとしてマラソン(ランニング)が知られています。
少し古いデータですが1948〜1999年の52年間の東京都23区内におけるランニング中の突然死は118件報告されており、その原因は81%が心疾患であり、大動脈瘤破裂と脳血管障害を加えた心血管系疾患は96%を占めていた報告されています(畔柳三省, 他: 臨スポーツ医. 2002; 10(3): 479-89)。
これらのことも踏まえると、登山中に発症する突然死もそのほとんどが心臓突然死であると推測されます。
さらに長野県山岳総合センターと山岳遭難防止対策協会では、「長野県内で2013年に14人が心臓突然死で亡くなり、家族からの聞き取り調査では心臓病の既往を持った人は一人もいなかった」と報告しています。この報告からわかることは、山中で心臓突然死してしまった方の多くは自分自身が心臓病を抱えている事を自覚していないままに登山をしていたということです。
登山者検診では心臓超音波検査、心肺運動負荷試験(CPX)、循環器専門医診察により、登山前に心疾患のチェックができます。残念ながら現代の医学では全ての突然死を未然に防ぐことはできませんが、事前の適切な検査・治療により防ぐことが出来る心臓突然死は確実に存在します。