CPXでわかる登山に必要な体力CLIMBER 2022年8月9日
心肺運動負荷試験(CPX)とは?の項でCPXについてご説明しました。CPXを行った結果としてPeak VO2やATなどの値が得られます。では、これらの値は実際に自分が登りたい山とどのように関連するのでしょうか?
現在、信州をはじめとして多くの山岳県で山のグレーディングというのが行われています。
山のグレーディングでは「体力度」1〜10の10段階、「技術度」A〜Eの5段階に分けて、多くのメジャーな登山ルートを分類しています。
この表の本来の使い方は、過去に自身が登った山と比較して、次に新たに初めて登るルートを決める際に用いられます。
例えば「前回は体力度5・技術度Bの蝶ヶ岳~常念岳の縦走が問題なく歩けたから、次回は技術度Cに挑戦したい。念のため体力度は4に落とそう。そうすると白馬岳(猿倉から)や赤岳〜横岳〜硫黄岳縦走、烏帽子岳(高瀬ダムから)などが候補になるな・・・」といった使い方です。
しかし、残念ながら人間の体力というものは自然と維持されるものではなく、体力を維持するためには絶え間ない努力が必要です。実際には、仕事が忙しい、家庭の事情で・・・といった様々な現実社会のしがらみから山に登れるのは1〜2ヶ月に1回という人も多いのではないでしょうか。 1〜2ヶ月も間が空けば適切なトレーニングを続けない限りは体力の維持は難しいため、必ずしも過去の自身の経験がそのまま適用できるわけではありません。(「山岳遭難の現状」)
登山者検診では、残念ながら「技術度」の判定は難しいですが、「体力度」についてはより正確に客観的に判断することができます。
これらのグレーディングでは下記の式が用いられています。
図1:ルート定数
中原玲緒奈, 山本正嘉ら, Japanese Journal of Mountain Medicine Vol.26:115-121, 2006.
つまり、行動時間(一般的なコースタイム)、水平移動距離、累計登り標高差、累計下り標高差から算出されるルート定数を10段階にわけて「体力度」として示しているのです。
さらにルート定数は重さの要素(体重+荷物の重さ)をかけ算することで消費エネルギーが推定できます。上記の式を提唱した論文を読むと、もともとは登山中に必要な消費エネルギー量を計算する式を作るために、携帯型CPXを背負って登山を行って、上記の式ができあがっているのです。
したがってCPXを受けていただき、その結果を目標の山のルート定数と比較することでより具体的に現在の自分の体力と目標の登山ルートとの比較できると考えています。